書評

流浪の月が描く「事実と真実」ー書評・レビュー

2020年 本屋大賞受賞の流浪の月(凪良ゆう)を読みました。
本屋大賞と言えば2019年大賞受賞の「そして、バトンは渡された」、2018年「かがみの孤城」2017年「蜂蜜と遠雷」と個人的に大好きな作品ばかりだったので、読むのをとても楽しみにしていました。

以下ネタバレを含みますので、これから読もうと考えている方はご注意ください

あらすじ・内容

2020年本屋大賞受賞
第41回(2020年)吉川英治文学新人賞候補作
せっかくの善意をわたしは捨てていく。
そんなものでは、わたしはかけらも救われない。
愛ではない。けれどそばにいたい。

あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人間を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。
(参照元:amazon)

9歳の頃 誘拐・監禁された主人公の更紗(さらさ)と誘拐犯である大学生の文(ふみ)の物語。

感想は後述しますが、この内容紹介を読んだだけで、小説の内容を思い出して胸がぎゅっとするくらい面白い、好きな小説です。

感想

超技巧のトリックや衝撃的な展開が続く訳では無いのに読む手が止まらなくなり、読み終わったあとは強烈な切なさと不思議な安堵感で放心しました。

「事実の圧倒的な強さ」がもどかしく切なく、その呪縛から解き放たれた二人を祝福したい、そして真実の多面性に驚く そんな小説でした。

読み終わった後「すっきりする」とか「ほっこりする」とか逆に結末に「もやもやする」とか色んな感想があると思うのですが、こんなに気持ちが「引きずられる」小説は久しぶりだったなと感じます。

流浪の月には大きく2つのテーマがあると思いました。

①「事実と真実」

事実とは実際に起こった事柄。
この小説では「女児が男に誘拐され2ヶ月間監禁された」ということです。

この裏にどんな真実が隠されてようと、どんな理由があろうと事実は揺らがない。

そして、事実は周囲の人々に「それらしい真実・最もらしい真実」を想起させます。

流浪の月には、「事実と真実」に関する印象的なシーンがいくつもあります。

誘拐された更紗が警察官に保護されるシーンでは、
保護されたはずの更紗は「ふみー!」と誘拐犯の名前を呼び泣き叫びます。
明らかに異常なシーンなのですが、それを見た人々は「もしかして実は誘拐じゃなかったのか?」ではなく、「可哀想に、洗脳されてしまったんだ あまりにひどい経験で精神が壊れてしまったんだ」と理解します。

また、大人になった更紗が彼氏などに真実を伝えようとするシーンでは、
更紗が必死に文の無実や、文に救われたことを伝えようとすればするほど同情の目を向けられ、絶望します。

事実と、それが想起させるそれらしい真実の圧倒的な強さ。
届かない更紗の声が切なく、蜘蛛の糸に絡まれていくような苦しさが読者にも伝わってきます。

②「ひとつではない、真実」

そして、真実はひとつでは無いというのもこの小説のテーマだと思います。

関わる人の数だけ真実がある。
更紗には更紗の、文には文の真実があり、最後に読者はミスリードされていたことに気が付きます。

どちらかと言うと情緒的なこの小説の「どんでん返し」は目を見張るような衝撃というよりは、すーっと胸に染み込むような新たな発見でした。

真実の多面性と、真実にこだわることを手放した更紗の台詞が印象的です。

「せっかくの善意をわたしは捨てていく。
そんなものでは、わたしはかけらも救われない。」

さいごに

私は読書が好きですが基本的には小説ばかりで実用書や啓蒙本はあまり読みません。
せっかく本を読むのに、身にならない小説なんてもったいないと思う人もいると思います。

だけど、小説や漫画、ドラマや映画など物語ってなぜフィクションなのにこんなに胸を掴むんでしょうか。
音楽と同じように人の創造性の素晴らしさであり、毎日を彩ってくれるものですよね。

そんな物語のすばらしさを思い出させてくれる、読後の余韻がすごい作品でした。

気になった方はぜひ読んでみてください。

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